マトリックスと零士

マトリックスと人間(と機械)の関わりかたこそが興味の対象だったのに、肉弾戦がメインだったのでポカーンという感じ? リローデッドの前半パート(通称:マトリセックス)で感じたものが全編に。「俺達の居場所は渋谷センター街じゃねえ、アキバだ!!」みたいな。

いうまでもなくマトリックスで描かれる超人的能力は、プログラムを理解し行使することで機能を実装したり問題を回避したりした時に、僕らが感じる万能感・超越感そのものだろう。それをワイヤーアクション、CGIバレットタイム……といった技術を用いて視覚化したことが衝撃的であり、僕らのナルシズムとかヒロイズムを満たしてくれたんだ。

論理と論理のクールな戦い!日々吐き出されるスクリプトの数々!!夜毎繰り広げられる不毛なチャット!!!それこそが僕らをカウボーイにしてくれた!!!!

リローデッドまではまだよかった。アーキテクト爺の語る世界の謎に心踊らせ、「増殖するスミスは“名無しさん”なんだよ!!」と翌朝までしゃべり通す程度には魅力的な体験だった。

それなのに、ザイオンの連中ときたら野生のリズムに身を任せ、ひたすら実弾をぶち込み、肉弾幸ですよ奥さん!ジスイズアワインデペンデンスデーイ!イエフー!!ミ・フ・ネ・最・高!!そりゃカッコいいさ。でもそれはこの映画で僕が見たかったものじゃないんだアパーム!弾もってこいアパーム!!

わずかな望みの救世主様も「オラにまかせとけ!」とばかりに宇宙最強対決!CHA-LA!HECCHA-LA!!ですよ。ハリウッド版ドラゴンボールZへの期待が膨らむ一方で、ENTER THE MATRIX気分はシオシオと萎んでいく一方ですよ。

びっくり迫力映像博覧会に、野生の塊の様な茶髪アニキとギャルが「すげー!」と喜べば喜ぶほど、目の前のスクリーンに投影されているものへの憎悪がムクムクと膨れ上がります。すごいのはわかってます。マスタースレーブで動くパワーローダーがバリバリとバルカン乱れ撃ちですよ。エイリアン2の、ガンヘッドの時代からあこがれて、夢にまでみた映像ですよ。雲霞のように押し寄せる敵軍が、個々は自律しつつ、一つの目標に群れて向かう生物的な動きの素晴らしさよ!!でもそういうのはスターシップトルーパーズ2でやってくれないかい?

ああ、この感覚には覚えがあるぞ……知っている、僕はこれを知っている……。

そう、かつてあれほどセンスオブワンダーとロマンを感じさせてくれた「銀河鉄道999」が、ヒロイズムの塊みたいな「キャプテンハーロック」がどうなっていったか。

本編すら無視する勢いで、統合され、伝説化への道をひた走る銀河鉄道と宇宙海賊は、3DCGをはじめとする映像技術の進歩によって、圧倒的な説得力をもって自由自在に宇宙の海を飛びまわるようになった。けれども、そこにあるのは宇宙を走るロマンチックな機関車の姿と、なんだかよくわからないが少年を導く巨大な運命と、理由はわからないが危険を顧みず男気あふれる宇宙海賊のイメージだけ……。

行く先々で出会う宇宙の、時間の漂流者達がその生き様を通して我々に問うたものはいったいなんだったのか……。現在のハーロックと「ごっつえぇ感じ」の「世界第一位の男」は似ている……。と、鉄郎は思った。

けれども、本当は最初からこんなものだったのかもしれない。僕らが期待しすぎたんですよ。

「鉄郎、999に乗りなさい……。鉄郎……。」
「君が気に入ったなら、この船に乗れ。」
「機械の星に行くんだ!!」

ほらみろ、“マトリックス”というアイデアを無くしてしまえば、すべては松本零士サーガそのものじゃないか!!

「さよならMATRIX…マシンシティー終着駅」 おわり